萌え辞典

萌えの意味について、正確に理解している人は、どれだけいるだろう。
ハッキリ言ってしまえば、誰ひとりとしておらず、誰もが正しいと言える。
言葉なんてものは、時代と共に生まれ、変化し、そして消えてゆくものだから。
だから、こうして言葉遊びのように使われる「萌え」に、正確な意味など存在しない。
だが、あえて言うなら「草木が芽ぐむ」事であると言えるのだろう。
でもそれだと、私がこの本を書いている意味がないので、それ以外について語る事が、この本の趣旨である。

「萌えについて」で書いた通り、そもそもの語源は、「燃える」である。
アイドルに燃える、スポーツに燃える、勉強に燃える、昔も色々なものに燃えていた。
これがこのまま「萌える」に移行したのなら、意味もそのままである。
「推し」「愛着」「欲望」「気合」「情熱」などという事になるわけだ。
もちろん、今でもそれは変わっていないと言える。
それでも、その意味や対象は、広がっているように感じる。
工場萌え、クレーン萌え、夕日萌え、登山萌え、歴史萌え、もうなんでもアリだ。
だが、冷静に考えてみると、「萌え」は「燃え」と同じ意味としても、「好き」という感情に突出している事に気が付く。
そう、萌えという言葉は、使われ始めてから、徐々に燃えるとの使い分けがされる方向に動いていたのだ。
しかし、ただ好きなものを「萌え」と言い換えているとしたら、それはただの流行り言葉として終わっていただろう。
なのに「萌え」は、衰えるどころか、尚も広がり続けている。
これはおかしい。
「燃える」とも違う意味を持ち、「好き」だけでは言い表せない何かがあるから、「萌え」は使われ続けている、という考えに私は至った。
つまり一つの言葉として、しっかりと意味をもっていると言えるだろう。
では、それは一体なんなのか？
３日ほど寝ずに考えて、ようやく私はその結論に至った。
「可愛い」という事である。
そう、一昔前、なんでもかんでも「かわうぃい～」なんていうのが流行っていたではないか。
全然可愛くもないぬいぐるみを見て、「かわうぃい～」なんて言っていたではないか。
工場も、クレーンも、夕日も、登山も、歴史も、どれも決して萌えるはずもないものなのに、「萌える」と言っているのと似ているではないか。
「萌え」とは、「燃える」や「好き」以外にも、「可愛い」という意味も、知らない間に取り込んでいたのだ。
可愛くて、大好きで、燃えるもの、それらの意味を全て含めたものが「萌え」なのだ。
それでいて、一昔前の「かわうぃい～」と同じような使われ方をしているにすぎない。
だがこのままでは危ない。
しっかりした意味を示し、その上で流行りとして、遊び言葉として使われているという事にしないと、今我々が愛している「萌え」は、きっと消えていく事になる。
消えていったところで、デメリットを感じる人が多いとは思えないが、私は寂しい。
或いは、このなんでもかんでもな感じで定着していく可能性もあるのだろうか。
もしそうなったら、しだいに「萌え」に対しての共通認識が無くなって、気が付けば萌えだけで会話が成立するが、意味が全く伝わらない事態に陥る可能性もある。
そこでやはり、「萌え」についての意味を、そろそろ明確にしておく必要があると私は考えた。
要するに、流行りで使っている範囲と、言葉の意味として成立する部分を分けなければならないのだ。
「燃える」「好き」「可愛い」そして「萌」、全てをまとめると「子供や動物にある可愛さ」であり「それが好きでたまらない気持ち」と言い表せる。
子供だけでなく動物を含めたのは、動物の可愛さは、子供の可愛さに近いものがあるから、一応入れておいた。
とにかく、ようやくたどり着いた。
「萌え」とは「子供や動物の可愛いさが好きでたまらない気持ち」であると。
ん？しかし私には何かが引っかかった。
赤ちゃんを見て、「萌えるね～」なんて言っている人を見た事がない。
大概は普通に「可愛い～」と言う。
何かが違う。
そう、「萌え」には、子供は含まれないのだ。
だいたい、子供が子供らしく可愛いのは、当然である。
人間の本能でそうなっているのだから。
改めて、萌えの本当の意味、正しい意味を示そう。
「萌え」とは「大人の中にある、子供っぽい可愛さ、動物っぽい可愛さが、好きでたまらない気持ち」であると。
あえて大人、生物に限定したのには、物に子供ってないからという理由だ。
さあこれで、「萌え」という本当の意味を理解できたと思う。
こんな事を真面目に、さも萌えのパイオニアのように語るのも、なんだか恥ずかしい気もするが、誰かがやらなければならない事なので、あえて頑張ってみました。

もう一度言います。

萌えとは

大人の中にある、子供っぽさや動物っぽい可愛さを、好きでたまらない気持ちである。

現在、ありとあらゆる事柄や物に対して、「萌え」と使われているのは、「可愛い」が、なんでもかんでも「かわうぃい～」と使われていたのと同じ事であると、最後に付け加えておきます。